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スカシカシパンの学名の誤りについて

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mannii

好評発売中の『ウニハンドブック』、皆さんの手に無事に渡っているようで嬉しいです。本当に有難うございます。

さて、残念なことですが1点、とあるミスが発見されました。購入頂いた方から、WoRMSの記載と異なる学名があると指摘を頂き、発見に気付くことになりました。

ミスがあったのはスカシカシパンの学名です。この学名が掲載されておりますのは、該当種の掲載ページ(p.91)、学名による索引(p.124)の2箇所になります。

Astriclypeus manni
Astriclypeus mannii

分かりますか、種小名の語尾の i の数が違うのです。正しくは2つ。

私の専門である分類学という学問は学名の正しい運用が最終的なミッションです。そんな重要な学名の綴りをミスしてしまうのは、本当に大きな見落とし・考慮不足でした。既に購入頂いた皆様、出版に関わって頂いたすべてのみなさま、本当に申し訳有りませんでした。

さて、今回の記事では、種小名の語尾に i を1つ付けていないことが、一体どのようなミスなのか、備忘録を兼ねて解説してみます。


スカシカシパンの種小名は、Mr. Horace Mann氏への献名により形成されています。献名という概念は、学名にある程度詳しい方なら知っているかもしれません。

現代人の名前を直接使う際には、ある語尾を付与すべきことが規約で定められています。付与すべきある語尾は次の通りです。

  • 男性1人 : -i
  • 男性含めた複数人: -orum
  • 女性1人: -ae
  • 女性含めた複数人: -arum

現代人の男性であれば全記した名に i をつけるだけで完成します。

近代の多くの献名は、このルールに則って語尾に iae を付けて献名としています。Mr. 河合さんへの献名は kawaii になります。かわいいですね。


上記のような i をつけるだけの語尾は、 現代人の名前を直接使用 する際の用途です。直接使用せず、 ラテン語化した名前 を用いる際に話が変わってきます。

固有名詞をラテン語化する際は、次のように語尾を付けます。

  • 男性形: -ius
  • 女性形: -ia

献名の際には、語尾に更に、先程の献名用の語尾が付与されます。その際、 -ius では us が、 -ia では a が格変化を受ける語尾となります。

つまり、ラテン語化+献名の場合は、次のような語尾が付与されるようになります。

  • 男性1人: -ii
  • 男性含めた複数人: -iorum
  • 女性1人: -iae
  • 女性含めた複数人: -iarum

したがって、献名の語尾は、男性では iii 、女性では iaiae の両方があり得るということになります。


さて、スカシカシパンの話に戻りましょう。 まずは原記載に当たってみます。 スカシカシパンの種小名はMr. Horace Mannへの献名です。よって、 mannimannii の両方の可能性が考えられます。

原記載で提唱されていたのは… Astriclypeus mannii なのです。あああ。 献名であることは理解しつつも、 mannii の可能性を考慮できず、 manni と間違えてハンドブックで掲載してしまいました。

言い訳がましいものですが、スカシカシパンの種小名は、Googleでフレーズ検索すると分かりますが、 mannii よりも manni が使われていることが殆どです。

(2019/11/10時点)

  • " Astriclypeus manni " 約 37,700 件
  • " Astriclypeus mannii " 約 198 件

見方によっては、ミスの方が多く使われている現状では manni でも検索性はそこまで落ちない、それどころか多い件数の情報にアクセスできる、という利点があるかも知れません。

しかし、やはり規約に反している以上は本来の用法に正す必要はあります。今回のハンドブック出版は、この重要な間違いを正すチャンスでもあった訳です。その機を逃してしまったことが大変悔しいです。ダメ。


総括のようなものですが、今回のミスは考慮漏れに起因します。 もっと命名規約を普段から読んで普段からトレーニングしておけば、気付けることができたかも知れません。もっと命名規約を読んでいくよう、尽力してまいります。