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ウニ類の有棘標本の作製方法

概要

本ページではウニ類の 有棘標本(spined specimen) の作製方法を紹介します。有棘標本はその名の通り棘が付いたままの標本の形態を指します。 有棘標本を作成することでウニ類の生体の姿をおおよそ保存できます。 ウニ類の同定でしばしば必要となる棘、叉棘、管足などの器官をまとめて保存することができます。

ウニ類の有棘標本作成は麻酔の必要性や、廃液の処理が必要となりません。 よってフィールドや船上でウニ類を入手し標本を作る際は、基本的に有棘標本を作ることになると思われます。

有棘標本はたくさんの情報を取り出すことができる標本であるため、本格的な同定を必要とする個体などは、ひとまずこの有棘標本を作っておくことをお勧めします。

フィールドでの作成手順は非常に簡単なものですが、収納や容器、試薬の調達はやや大変になることが多いです。 ウニ類を求めてフィールドや乗船調査に赴く際はよく下準備しておきましょう。


作成方法

有棘標本 には 液浸標本(immersed specimen)乾燥標本(dried specimen) の2つの状態があります。

液浸標本

液浸標本はエタノールやホルマリンといった固定・保存液に浸された標本です。

  • エタノールは比較的容易に入手できる他、処理後の標本からのDNA抽出を容易にすることができます。
  • ホルマリンは入手が非常に困難、DNAが保存されにくくなりますが、内臓などの形態がエタノールに比べて生時の状態をよりよく保存できます。

どちらの

手順

他の海洋生物は麻酔といった処理が必要であることが多いですが、ウニでは不要です。 むしろ叉棘などが自切する隙を与えないように一気に固定液に浸すことで、生時の状態を綺麗に保存することができます。

  1. 密閉性が高く、ウニが全身浸るだけのサイズの容器に固定液(70%以上濃度のエタノール)を入れておきます。
  2. 固定液にウニを浸します。
  3. 固定液はウニの体腔液などによって直ちに薄まるため、固定液が浸透したと思われるタイミングで保存液(70%以上濃度のエタノール)に入れ替えます。
エタノールの濃度
  • 99%程度の濃度を用いることでDNAも保存することができるが、脱水能力が強いため軟組織の変形が顕著になる。
  • 70%程度の濃度を用いることで軟組織の変形が抑えられるが、DNAの保存能力は低い。
容器への入れ方
  • 棘が脆い種類などは硬い容器に直接入れてしまうと、容器が揺れた際に棘が容器の壁面に衝突してしまい、棘の先端が欠けてしまったり、衝撃で殻にヒビが入ってしまうことがある。そうならないように、固定・保存液が浸透するように切れ込みや孔をあけたビニール袋などにウニを入れ、緩衝材とすることでウニを衝撃から守ることができる。

ビニール袋に入れることで、複数の個体も混ざらずに一つの容器に入れることができる。

大型ウニ類の処理
  • フクロウニ類を初めとするウニは非常に大型であり、殻内部の体腔液も多いため直ちに固定・保存液が薄くなってしまう。
  • 先に殻の一部に切り込みを入れ、体腔液を排出してしまうことで、内部から腐敗しないようにすると良い。

フクロウニは柔らかい殻を折って容器に入れることもできる。

乾燥標本

乾燥標本は上述の薬品による固定後、乾燥させた標本です。溶液がないため非常に軽く、取り回しが良いことが特徴です。しかしカビなどが生えるリスクがあるため、長期保存には向きません。展示用の標本としては向いています。

手順

液浸標本を作成しておきます。

  1. 液浸標本を保存液から取り出し、風通しの良い暗所で1–2日ほど乾燥させます。
  2. 乾燥剤と共に適当な容器に入れて保管します。